|
2011年8月4日
杉並区教育委員会 委員長・大藏雄之助 様、宮坂公夫 様、田中奈那子 様 對馬初音 様 教育長・井出隆安 様
2012年度中学社会科教科書の採択に関する要望書
無所属区民派 けしば誠一・新城せつこ
杉並区では、前区長の教育への不当な介入により、2005年以来中学歴史教科書に扶桑社版が採択されました。扶桑社版教科書の史実の誤りや不正確な表現を補うための現場の教員にはご苦労をかけました。田中新区長が、「教育は教育委員会に任せる」として、教育の独立性や公正性を明言されたことに、保護者・教員は期待をかけています。
「新しい歴史教科書をつくる会」の自由社版、つくる会と別れた日本教育再生機構=「教科書改善の会」の育鵬社版は検定を通りました。彼らは、杉並で行ったやりかたで全国に採択拡大を図っています。「つくる会」と「改善の会」は、地方議会や教育委員会に「教育基本法や学習指導要領改正の趣旨に最もふさわしい教科書を採択すること」という請願(陳情)を出し圧力をかけてきました。すでに東京都の中高一貫校や大田原市、藤沢市や東大阪市で育鵬社版が、都立特別支援学校では自由社が採択されたのは同様の手口によるものです。このような動きを止めるのは、杉並で育鵬社・自由社版の採択を止めることです。
育鵬社と自由社の歴史・公民教科書を採択してはならない理由を以下、述べます。
第1に、育鵬社と自由社の歴史・公民の教科書は、日本国権憲法の主権在民、基本的人権、平和主義の三つの基本原理を否定していることです。主権在民とは、政治のあり方を決めるのは民衆にあることを示し、大日本帝国憲法が天皇主権であったことに対抗する概念です。ところが、「つくる会」系教科書は、歴史では、神話にある神武天皇を初代天皇とし、現在に至るまで天皇が君臨する国家として日本を描いています。昭和天皇をコラムで平和主義者として称えていることも歴史の偽造です。公民では、大日本帝国憲法と日本国憲法では、天皇の位置が変わらず続いているように説明します。他社の教科書が、「主権在民が定められたことにより天皇の位置がかわった」としているのとは大きな違いです。
また、基本的人権は、人間の固有の尊厳に由来する普遍的な権利であり、公権力に守らせるものとして理解されてきました。これに対し「つくる会」系教科書は、公権力による人権侵害からの保障という視点をもたず、逆に、公共の利害(国家の利害)を理由に、人権の制限や義務を過度に強調することが随所に見られます。他の教科書が基本的人権の具体例をあげて、イラストや写真入りで説明しているのと大きく異なります。
さらに、平和主義について、他の教科書は、「日本国憲法は、第2次世界大戦の悲惨な戦争体験に踏まえ、深い反省に基づき、平和主義を採用し、戦争と戦力の放棄を宣言した」と説明しています。ところが、つくる会系教科書は、平和主義について、「連合国によって押し付けられたものである」と説明し、これを否定し変えるよう求めています。以上、育鵬社版、自由社版とも、憲法違反の教科書であることです。
第2に、つくる会系教科書は、9条改憲を進める政治的目的のために書かれ、専門的見地から書かれたものでないために、内容も間違いだらけで教科書に値しないものだということです。今回、付された検定意見は、自由社については歴史237件・公民139件、育鵬社については歴史150件・公民51件であり、いずれも平均件数(歴史116、公民44)を大きく上回っています。現場から記述の誤りが数多く指摘されながら訂正していません。自由社の歴史年表が、他社からの盗用であることを認めて謝罪したことも見過ごせません。
第3に、歴史教科書では、近隣諸国の「脅威」をあおり、戦争と侵略の事実を正当化していることです。韓国併合では、「日本語教育とともにハングル文字を導入した教育を行った」(自由社)と、朝鮮でハングル教育を始めたのは日本だという記述が登場しました。朝鮮語を上回る時間が「国語」に当てられ、後に朝鮮語教育を禁止したことは書きません。育鵬社は、土地調査事業で朝鮮農民の土地を奪ったという記述を削り、「併合後の朝鮮の変化」として人口や耕地面積、米の生産が増えたという表を載せ、経済が発展したと描きます。広大な土地をうばい、増産分を上回る米が日本に運ばれたことは無視します。アジアの人々との友好を築く子どもたちに、正しい歴史を伝え二度と同じ過ちを繰り返さない教育こそが、国際理解や国際化社会に向けた教育の基本的な姿勢であるべきです。
第4に、福島原発事故以来、改めて明らかになった原発の危険性について、育鵬社や自由社は書いていないことです。他の教科書は、原発の安全性の問題や廃棄物の処分の問題など、危険性について具体的に記述しています。育鵬社は、原子力発電の利点を強調し、危険性については「今後は安全性に配慮し」というだけです。自由社は、本文では「原子力発電では安全性の高い技術を確立し」と述べていましたが、急慮、コラムで原発事故に言及する書き換えを行いました。しかし、危険性について具体的にはふれません。今回の福島原発の事故を考えれば、現場で使うことはできません。
第5に、育鵬社や自由社は、「改定教育基本法と新指導要領」にさえ反する教科書であることです。「つくる会」が称賛する改訂教育基本法ですら、「学問の自由の尊重」や「正義と責任、男女の平等」、「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」「教育は、不当な支配に服することなく」とあります。この記述全てに反します。
教育基本法に「我が国の伝統文化の尊重」が新たに明記されました。「つくる会」系2団体は、これを天皇制ととらえ教育勅語を復活させ皇民化教育を進める口実にしています。ところが、彼らが崇拝する、万世一系の天皇制と公民化教育は、明治政府成立後、富国強兵策や侵略戦争へ国民を駆り立てるためにつくられたものであり、1945年の敗戦までのわずか60年から70年間の短い期間のものでした。日本の伝統文化といえば、民衆が祭ってきたのは、太陽神信仰ではなく北辰信仰すなわち北極星を最高位とする信仰でした。天皇制とその神話や思想は、我が国の伝統文化などと言えるものではありません。
以上の理由から、
第1に、現場の教員や保護者の意見を聞き、子どもたちが使いやすい教科書を選ぶ採択のあり方を求めます。
第2に、教育委員会はその独立性と公正性を発揮し、育鵬社版・自由社版を採択せず、杉並にふさわしい教科書を採択するよう求めます。
第3に、採択の公開性や透明性から、傍聴を希望する人々にその機会を設けるため、第3、第4委員会室などの大部屋での審議を求めます。
|