議案第35号「杉並名誉区民を定めることについて」への反対意見
2008/05/29 木曜日 21:05:16 JST

山田区長は、4月2日101歳でなくなられた児童文学者石井桃子さんを、名誉区民に選任する議案を提出してきました。無所属区民派は、以下の理由でこれに反対しました。以下反対意見全文です。

 議案第35号に反対する立場から意見を申し上げます。

 議案は、杉並区名誉区民として、第1号小柴博士、第2号目4名の人間国宝の邦楽家に続き第3号として児童文学者石井桃子さんの選任に同意を求めるものです。

 ここであらかじめ申し述べますが、私は石井桃子さんに対しては大変尊敬し高い評価をもつものです。石井さんは、かつて日本が果てしない侵略戦争に突入した後、英米の児童文学の翻訳は「敵性国家」の本という理由で、出版してもらえず食べることのできない苦労を強いられました。戦争中出版のあてのないまま書き続けたものを、敗戦後、1947年2月に出版したものが「ノンちゃん雲にのる」でした。戦争中は、子どもたちには忠君愛国ばかりが教えられ、石井さんはそんな教育はよくないと考え、平和な子どもの世界を描きました。「まわりに戦場にむかわねばならない青年たちがいた。兵隊にいくのがいやな青年もいた。彼らがよんで心が和むようなものが書きたかった」と石井さんは語っています。

 また、石井さんは「雲の上」に舞台を設定したことについて、「私がこの作品で言いたかったのは、人間は皆同じで人間に上下はないということでした。書き上げた原稿は、戦時中は忠君愛国がかかれていないといって、どこの出版社も出版を引き受けてもらえませんでした。」と語っています。私はこうした石井桃子さんが、戦後、私たちの杉並に暮らし、1956年から自宅に子ども向けの図書館「かつら文庫」を開設し、多くの子どもたちに親しまれたことを学びました。こうした石井桃子さんに、感謝の意を捧げるとともに改めて心からご冥福をお祈り申し上げます。

 しかし、そうであればあるほど今回山田区長が、石井桃子さんがなくなられた後の大きな反響を知り、突然、名誉区民に選んだことについて大変疑念を抱かざるを得ません。

 まず第一に、亡くなられた方を名誉区民とすることの疑念です。マスコミもプレス発表した後、区長に対して「なぜ亡くなった方を選んだのか」と私と同じ疑問を投げかけました。区長はどのように答えたのでしょうか、お聞きしたいものです。

 第二に、杉並区の名誉区民という称号は、第一号の杉並区区政70周年記念事業の一環として、ちょうどその頃ノーベル物理学賞を受賞した小柴博士にささげたことからはじまりました。これ自体、山田区長の政治的な意図が感じられながらも、この時は区民誰もが納得する背景がありました。第二号は、区政75周年にあたり杉並在住の人間国宝である邦楽家4名に対するものでした。第一号と比べ、なぜ邦楽家であり洋楽家ではないのか、など疑念が残りますがそれでも区内在住のまれな人間国宝にささげるものとして、納得させる一面はありました。

 ところが、今回の石井桃子さんに関しては、先に述べたように優れた方であったとしても、区長があえて名誉区民とする理由が見当たりません。他にも優れた方は数多く区内に存在し、これから毎年そういう方が亡くなるたびに授与するというのでしょうか。そうなれば、それはあきらかに山田区長の政治的利用に資するものに他なりません。

 名誉区民を定めた後、それが政治的に利用された結果、他の区では様々な不祥事が起こっています。例えば、台東区では前区長を名誉区民にしたことで区民からひんしゅくをかっています。さらに世田谷区でも現区長が、前区長を名誉区民に選定することに対して、名誉区民が区長を辞めた後の称号になるということで反対意見も出されています。同じ世田谷区で名誉区民の称号を受けた人が、体育協会の公金を使い込んだことで告発された事件も起こっています。名誉区民が杉並区の叙勲制度のようなものになれば、同じような道をたどる危険性を指摘しておきます。

 第三に、毎年成人式のたびに特攻隊の手記を読み上げ、国のために命を捧げたことを讃え、青年にそれに見習えと訓示する区長が、一貫して戦争に反対し命の尊さを訴え続けた石井桃子さんを、亡くなった後名誉区民とするのは、政治的な利用といわざるを得ません。生前であれば、石井桃子さんは受けたどうかわかりません。これは2重の意味で石井桃子さんを死後、冒涜するものに他なりません。

 第四に、これまで山田区長以前は、杉並区には他区にある名誉区民などというものがないことが杉並区のよさでもありました。そもそも国や自治体がたとえ優れた人物であろうとも、上から称号を与えたり、勲章を与えたりすること自体が、国や公的なものが個人よりも上位にあることを示すものです。とりわけて叙勲制度はいまだに日本国民が天皇の下に支配されていることを示す制度に他なりません。一号の小柴博士がある意味で、特別な感動を杉並区民に与え特に子どもたちに科学や未来への希望を与えた点で特筆すべきものであり、これだけにとどめればよかったのかもしれません。

 ところが、山田区長はこれを契機にして、名誉区民を自らの売名と政治的効果に利用してきました。今回の提案の背景には、三年後に区長を辞めて政治家としての転身を図ろうとしている山田区長の意図があると判断しました。当該の石井桃子さんは、死ぬまで人間に上下はなく、平等であることを子どもたちに説き続けた方です。山田区長の新自由主義的施策による教育現場への競争原理の持ち込みや、戦後教育を悪平等と否定する思想とは180度異なるものです。最後に、石井桃子さんの遺志を継ぐとすれば、今後杉並区民の中に、上下関係をつくりだすようなものとなる名誉区民制度を撤廃することを求め、議案に対する反対意見とします。

 
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